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『大作戦日誌』20031101-20031130

20031101/001055
『イシを取る場所に』
小豆島は、古来から大規模な採石場だという事は情報として知っては、いた。
しかし、実際に肉体をその場に置いてみると、
その広大が体験となる瞬間が実に心地よい。
 
小豆島南部である四国側には、島という事を意識させない市街地も在る。
しかし、島北部の本州側には、広大な採石場風景が延々と待っていてくれる。

掘削され、形を失ってゆく山々。
その風景には、喪失感や反感までも感じる。
自覚・無自覚を問わず交錯する縁の何処かで、恩恵を受けているかも知れないのに。
 
ただ、その風景そのものの広大に、憧憬は確実に感じるのだ。
グランドキャニオン等の大峡谷を映像で見る度に、感じる様な角度で。

“あの片隅に、あの一隅に、自分を置いてみたい”という願望。
その断片が、不意に叶えられた様な一瞬が在った。

20031102/001056
『イシでもドア』
市街地ではそうそう目に出来ない様な大型重機や、その残骸を眺めながら走る。
陽は高く、暑く、気が付けば雲が見えず。ただ晴れた空が距離感を無くさせる。
道を通ってゆく車は数分間に1台程度だ。日曜のせいか、重機も止まったまま。
人影もなく、島の一隅なれど其処には確かに荒野が在って。時間と沈黙が在る。
この片隅でテントを張らせてもらえぬかと脳裏で望んだが、安全上無理だろう。
目に見える範囲に無い程の遠くで、発破の音が聞こえて、空間の内部に溶けた。
 
今、居るのは確かに此所でしかなく、そうして目的地に進んでいるのに、
“ぁあ、此所から何処へ行こう?”などと、そればかり思ってしまう。
 
運搬船が接岸するのだろうと思われる会社の港へ通じる土の道さえも、
なにやら知らない楽園への道に見えてしまう。

20031103/001057
『あのコの計測可能領域』
この、小豆島行時点で自転車にはサイクルコンピューターを装備。
総走行距離・走行距離・現在時速・最高時速を表示できるもの。
3000円台で、これだけ楽しめるブツが手に入るとは。

画像では解りにくいが、ハンドル右側から順に、
変速機・サイクルコンピューター・無理矢理繋いだウエストポーチ・ライト・ベル。

水分補給の為、ペットボトルは必需品。
いちいちザックから出すのは面倒なので今回の無理矢理なウエストポーチに。
地図やデジカメも放り込む。なんとかバランスは取れたが見栄えが難儀満載。

自転車用フロントバッグは5000円程度からと割高な上に、
折り畳み自転車では装備し辛い。
このあたりの改善は今後の課題。
 
そんなこんなで、ペットボトルをチビチビと飲みつつ、
採石場前の心地よい直線道路を楽しむ。
 
夏の陽は未だ残っている。気温は既に30度を越えている。

20031104/001057
『第一次直線計画』
まっすぐな道を探すのは、日本国内でも特に困難という訳ではない。
ただ、
彼方まで空間が広がる“心地よいまっすぐ”に巡り会う瞬間は結構、不意だ。
 
小豆島北岸の採石場前の直線道路は、ちょっとした峠を越えた瞬間に会える。
こんな時、自転車は面白い。すぐに自分の足を道に着けられる。
自分が、まっすぐに見渡す彼方まで誰も居ない道の入口に立っている現実。

この爽快なダウンヒルで、自己最速に挑んでみた。
時速35km・・・40km・・・45km・・・・・
これが自転車で受ける風圧か。生身の速度か。面白い。
空気の壁を掻き分けてゆく感覚が在る。
 
それを越えてゆけば、また峠が待っている。


20031105/001058
『移動のニッポン』
交通量の少ない道を自転車でゆく。
快適な直線道路で、自転車の運動効率や慣性が肉体で理解できてくる。
なるほど、これは面白い乗り物だ。
 
これほどに移動しておきながら、自分で自身を移動させている実感が在る。
普段の日々で通勤経路を毎日の様に変えているのも、
ただ移動している事だけに自分を埋没させたくないという貧乏性からだが。
 
それでも、心地よい風景の中で移動してゆく事は、
そういう些末な思考以前に自分を素のままに放り出せる気がする。

ただ与えられたり受動した風景ではなく、
自力で風景に進んでゆく事の方が、自分の様な身には必須なのだと痛感する。
それは、ナルシシズムや虚栄の裏返しではなく、
しんどい事をしていかないとダメになる自分の、随分と面倒な現実だ。

20031106/001059
『路傍のムシ』
帆掛け船の様に、路上に止まる蝶を見る事が在る。
山道を走っていて、不意に海上の島が見える感覚と似ている。
 
採石場の並びを越えて、また登り下りの連続に入る。
蝉の声が壁の様に降っている中に、自分を進めてゆく。

夏の陽の中で、路上の蟹や蝶を避けながら走る。
 
それで救えたとは思えない。それで救われようとも思わない。
徳を積んだつもりもなく、ただ何気なく避ける。
ただその時に殺める事なく通り過ぎたというだけで、そして再び会う事は無い。

20031107/001060
『ショウドランド・ドライブ』
越えてゆく峠に、廃墟と化したドライブインを見つける。
人間の移動速度が増してゆく時勢の中で、存在理由が揺るいだのかも知れない。
 
きちんと施錠された内部は、まだ清浄な沈黙が在った。
それより中に踏み入る無礼も犯罪も旅の目的では無い。
先刻まで見ていた海が、誰も居ない建物のその向こうの窓から見える。

なるほど、この狭間に在るものが時間か?
 
そうして、島を時計回りに4分の3周すれば市街地に至る。
ええ感じのおばちゃん看板が目を引いた佃煮屋さんで小休止。
おばちゃんは御本人もええ感じで、佃煮アイスだけの購入でも店内休憩を勧めてくれた。
されど、この時点で休んだら、今日これからの自分が休みっぱなしになる気がしたので。

佃煮アイスを食べながら見上げる空は、それまでの数時間と当然に同じ空。
あのドライブインの窓に映る空からの時間を計ってみる。


20031108/001061
『醤油2岐路』
醤油の生産地としての小豆島を少しだけ感じつつ、交差点に立つ。
小豆島東南部の内海という町。交差点には安田という文字が見える。
このまま前進すれば、小豆島最高峰へ向かう道。
もう一方は、来島した港方面へ海岸線を進む島を一周する道。
 
暑い。
ザックに付けた小さな温度計は、既に35度を越えている。流石は路上。
既に時刻は14時。島から出る船の時刻表を考えると、思案のしどころだ。

港へ向かえば、市街地を散策した後に余裕をもって帰宅できるだろう。
神戸へ向かう船には既に間に合わないが、岡山・宇野・姫路各方面への船には余裕。
島を一周したという達成感を得てからバスで島北部の港へ向かえばいい。
 
坂道を登ってしまえば、どれほどの時間が要るか不可知。
登りきった後、島北部の港近くへ降りる道は通行止め。
山頂部から島西部への長い長い道を進んで島を横断し、
その後に市街地でバスを見つけるしかない。

どうするか? 一周か? 登坂か?
どっちもやりたいが、今日はどっちが面白い?

数分間を迷って遊んだが、既に坂道を向いている事に、気付く。
時間的な不安は在るが、不安でチャンスを逃すのは悪いクセだ。
面白い道に向かわないと、旅に来た意味も目的も希釈される筈。


20031109/001062
『コーラ対白血球』
危険。
標高800mをナメていたのは自分だ。
正確には、小豆島最高峰の星ケ城山は標高816.6m。

地図を確認すると、観光バスが登る道よりひとつ手前から登っているらしい。
いつの間にか、眼下に粟地ダムが見える。

予想よりも勾配はキツい。肉体疲労と、延々と上に坂道が続く精神疲労と。
ひと休みすると、最発進するのに自転車がウィリーしてしまう。強引発進。
 
500mlペットボトルを、常に1本予備に持つ事にする。
減りが早い。坂道を登る行為の中で、次の自販機を探す思考が増えてくる。
朝から、あんパン2個と佃煮アイスしか食べていない事に気付く。
意外と空腹感は無い。
 
体内のグリコーゲンが不足すると、基礎体力に関わらず行動できなくなる。
いわゆるハンガーノック状態だが、こんな坂の途中では御免こうむりたい。
非常用に持っていたカロリーメイトを齧る。水分の欲しくなる食べ物だが。
疲労対策に、コーラも結構効いている気がする。只の幻想かも知れないが。
懐かし名作映画『ミクロの決死圏』のヒロイン名もコーラである事だしな。

20031110/001067
『坂道トヒカリトカゲ』
 
頭から水をかぶった様な汗まみれ。
背中は、乾く間が無い。前腕は、陽射しで乾いて痛い。
何度立ち止まったか解らない。

ごくたまにしか車が通り過ぎて行かない。自分の音だけだ。
蝉の声は、もう当たり前に染み込みすぎて平常音になった。
 
休んだ路肩で、トカゲを見かける。
ごく普通のニホンカナヘビの様だ。
尻尾が少し短い印象だがニホントカゲの特徴である金属光沢が無いし。

なにはともあれ、
通過する車窓の人影よりも、何故か、眼前の生き物に元気づけられた気がした。

20031111/001068
『山寺ハーフティー』
危険。
小豆島を登るうち、とうとうペットボトルがカラになってしまう。
人家の無い区間なので、自販機も一切見当たらない。

危機ではあるが、楽しむにはいい状況だ。
予想外の出来事や予想外の風景を楽しまずに、何の為の旅であることか。

観光バスが通り過ぎてゆく。
休息ごとにストレッチを繰り返している為、筋疲労はそうでもないが、乾く。
乾けば、心身ともに疲労度が加速する。

なんとかなる。なんとかする。既に4分の3は登坂した気がする。
 
坂道の先を見ると、観光バスから遍路装束をまとった高齢の方々が団体で。
小豆島には島内部での“小豆島八十八箇所遍路”が在る。
猛烈な残暑の中、山寺への階段を元気に登ってゆくのが見える。負けられん。

なんとか、バス停車地点まで到達。乾いた身には階段が遠く高く見える。
しかし、観光バス内部には誰も残っていない様だ。全員出動か。なんて元気。
 
負けじと階段を登り、山寺に到達。自販機は無かったが、売店で缶茶購入成功。
自転車で登ってきた事を知って、
売店の女性が缶茶をひとつ自分のお金で買ってくださる事に。
「これは、応援」

感謝感激しつつ、屋外の水道をお借りする許可もいただいて洗顔三昧。人類水必要。

だが、自分の立ち位置も、この山寺では教えられていた・・・・・

「そうねぇ・・・あと、半分ぐらいありますよ」

20031112/001069
『大阪のオーバーサン』
「重力をナメとりましたやんけまんねん・・・」
ネイティブな筈の大阪弁も限りなくニセモノっぽくなるぐらい。
延々と続いた登り坂に疲れて、それでも進まないわけにもいかず。
なにやら、坂に負けた様な気にもなりつつ自転車を押して登る時間も多く。

だが、缶茶補給のおかげで、なんとかあまり押さずに走れる様になった。
やっと、坂の向こうに白い建物が見えてくる。あれが噂の『太陽の丘』か。
 
既に太陽は存分に浴び続けていたのだが、見上げる先に登り坂が無い。
そういう所まで登ってきたという充実。
それは実に個人的な、自覚でしか記せないものだ。
 
これで、夏の中で坂を登るシーンが小説で書ける。

そうも自覚したい気持ちは在るが、そんなシーンが1度で済むとは限らない。
結局、自分でも再び登るしかなくなる時が来るだろう。

20031113/001070
『ドッグさんの丘』
売店でアイスを食す。洗面所で再び洗顔祭。ペットボトル再補給。
 
休憩所から、丘の上に徒歩で登る。いろいろあってギリシャ風味だそうだ。
『オリーブ神殿』には永遠不滅の聖火。
『平和の鐘』も在る。 「国家安康」「君臣豊楽」とは刻まれていない。
 
MTBで登ってこられた方に挨拶。明らかに向こうの方が上級者だ。疲労度が違う。
軽量化の為にスタンドが無いので、横倒し駐輪が渋い。

休憩所で飼われているらしい犬にも挨拶。ハフハフしている。
犬は、ヒトの様に汗腺が無い為にハフハフして水分蒸散体温調節する動物。
それを知ってはいても、見た目は本気で暑そうだ。
まぁ、そのぶん、極地でも全裸で走れるわけだが。

20031114/001071
『1年のかんかけいは』
小豆島『太陽の丘』から、もうひと踏ん張り。
なんとか『寒霞渓』到着。既に16時半。
渓谷見物のロープウェイも、最終便を待つばかり。
売店も片づけを始めている時間だ。

此所は、正確には小豆島最高地点ではない。
最高地点である星ケ城山頂の標高816.6mには徒歩で登山道を行かねばならぬ。
もはや時間的に無理。本日の最高地点、ここまで。
 
『寒霞渓』は小豆島中央部に位置し、東西8km南北4kmの規模を誇る。
浸蝕された集塊岩が奇岩絶壁を露出させ、その谷間に豊富な植物が景観を織り成す。
 
自分の旅遍歴はまだまだ浅いと痛感している身だが、
山や海が、日々表情を変えていく様は幾分か想像しやすくなってきた。
季節や天候や時刻で光景は変転する。想像を越えて変転する。

そういう物事を感じるのに、高度というものは有効に働く。
なるほど、此所まで自分を運んできて良かったというものだ。

20031115/001072
『箱がゆく』
「もしや有料なのでは・・・?」と小心者ゆえに不安になる程、豪勢な公衆トイレ。
用を足した後は、しばし風景を心身に溶け込ませてみる。
 
木々が茂る。木々が彩る。
深い渓谷と、その向こうに在る瀬戸内海。双方は遠目にも穏やかだ。
奇岩奇峰を、その日の最終便ロープウェイがすり抜けてゆく。
そこに自分は乗ってはいない。
 
森の水分が夏陽に蒸散したせいか、もやが掛かっている。
あのロープウェイに乗っていれば、輪郭を間近で確認できただろう。
そうすれば、時間の都合が破綻して、帰って来れなかったかも知れないが。

そう、時間が無い。
自分が山上に居る事を忘れかけていた。
日常に帰還する為には、船の最終便までに港へ向かい、更に鉄道で移動が必要。

もはや、17時。
じわじわと、焦る。
なのに、このジワジワが良い

20031116/001073
『プロサルファー・ゴル』
寒霞渓には猿が居る。
野生のものと、檻の中のものと。
 
音も無く、枝が揺れる。金網の向こうで何かが動く。見える範囲、上下左右。

気が付けば、ざわりざわりと囲まれている。
あいにくだが、こちらの両手には何も無い。
盗られる物も無いが、与えられる物も無い。
だからこそ互いに平和である、単純な現実。
 
檻の中でも、当然に順列は在る。
静かに、それでも前面に出て威嚇する猿。
ただ片隅で、うずくまる猿。

檻の内でも外でも、猿は猿だ。
猿が猿である事の必然は、ただ猿で在るだけでいい。
だから、すべての猿は猿のプロフェッショナルなのだ。既に。

20031117/001074
『きっと猿も、そう言った』
哺乳類の瞳は、面白い。ヒト以外でも。
そこには表情が在り、
言語化される以前もしくは人為的に言語変換できる感情が見え隠れする。

だからこそ『バウリンガル』『ニャウリンガル』等の商品が面白いのは、解る。
振り回されなければ、ヒト以外の生物との交流や疎通は利得になる。
 
それでも、
水に「ありがとう」と言ったから結晶の形が変わったと畏怖する類は流石に困惑。
そういう話を楽しむのはともかく、盲信は怖い。

「何ひとつ不純物の無い水を手に入れるのはもの凄く困難です。
 不純物や周辺環境に左右されて、結晶の形は千差万別が当たり前ですよ」

そう答えてはいても、対人仕事な日常で幾人もの人々に接していると・・・
「いえ、あれば人間の波動が伝わっているんですよ」と、
真顔で即答してくれる方が複数おられるのが面白い。

感情波動が水にですら伝わるというのなら、
蹂躙される町から立ちのぼるであろう膨大な波動で何故に爆撃機が落ちないのか?
 
なんにつけ擬人化は、面白いし興味深い。
思考遊戯のみならず、効果的な打開を産む思考法にもなる。

だが、それは、
人間社会における当たり前の感受性を、普通に成長させてきた後に獲得する技法だ。

自分の感受性の幼さ・他者の意見や情報に対する無防備・自立および自律性の無さ。
その様な自覚を顧みる事なく、安逸な擬人化を自己啓発に使ってしまうのはどうなのか?

猿は猿、犬は犬、ヒトはヒト、風は風、水は水だ。

その当たり前を普通に認識していてこそ、
他者を、自分自身を守る事が出来るのではないのか?

「なぁ、猿?」

20031118/001075
『美しい原が来た』
寒霞渓に到達し、いよいよ快適なダウンヒル開始・・・と思ったら、
5分も走らないうちに登り、出現。不覚!
一律に下りばかりだと思い込んでいた自分が悪い。予測と願望を混同するな。

休息とっていたおかげで、なんとか踏んばって登る。
自転車のギア操作が素人なりに解ってきた。
路面の勾配だけではなく、筋肉疲労にも細やかに適応できるギア比を選ぶ。
速度効率のみならず、疲労度に対して激烈に影響するのだから無視できない。
 
眼前に遭遇するは、『美ヶ原高原・四方指展望台』への分岐。
左に進めば長い登り。登らずに前進すれば港への道。
だが、前進する道の彼方には、
先刻に『太陽の丘』で会ったMTBの2人連れが休息中。
あの2人は、この登りを克服してあそこまで進んだのだろう。
ここで臆したと思われるのも不本意。18インチの小径輪ぶんまわし。
 
『美ヶ原高原・四方指展望台』その名に違わぬ景観。
自転車を自転させてきた高度を再度確認する。

今年初め、北海道旅行に際して飛行機で視認した高度との差異。
あれも心地よいものだったが、
今、こうして自力で登ってきた高度に対する充実感は予想以上の収穫だ。

ここにきて、デジカメはバッテリー切れ。
まぁいい。それがどうした。自分が、覚えている。

日焼けした腕が、チリチリする。
夕暮れの光変化に反応している様に、チリチリする。

既に17時半・・・・・

へ?!

・・・・・日ぃ、暮れますがな。

20031119/001076
『ガードレイルメイト』
カロリーメイト残存分、全補食。展望台には、前も後ろも自分独り。
地図を目測すれば、バス停や港の在る土庄の町まで17km少々か?

夏の陽が暮れゆく、そのひとつ手前の時間。
夏の日は、何処を切り取っても新鮮な断面が在る。
手に入れたからには、味わい尽くさねばならぬ貧乏性。
 
生涯初めての長距離ダウンヒル、開始。

車輪が踊る。踊らせ過ぎれば、転倒が待っている。
小径車の不利な点だ。ハンドルを安定させる。
力み過ぎて、重心を前に入れ過ぎても転倒する。
自転車に上半身筋力が要るというのは、こういう事か。

風の音しか、聞こえない。
後方から高速で車が接近してくる音かと思えば、
実はそれは自分が通り抜けてゆく風の壁が作る音だ。

モーターサイクルとは違い、エンジン音が自身からであるぶん、
ぶつかる風圧の輪郭が剥き出しだ。
どういう移動方式といえどにも、風圧は魅力的だ。

ブラインドカーブが続く。
下りカーブの向こう、緊急用待避場が見える。
曲がりきれなかった車が、制動の為に突っ込む土の坂道。
そこには、くっきりと刻印された幾つものタイヤ痕が残っている。
あぁ、あれは実に有効な設備だったのだ。
 
走り抜ける先々で、ぼっこぼこになったガードレールが散在する。

バックミラーが無い。要るな。
ゴーグルが無い。要る。羽虫が目に飛び込んで来る。
ヘルメットが無い。なんて不用心だ。馬鹿だ。

スピードメーターを見ている余裕が無い。
太陽光は、ゆるやかに、しかしそれでも確実に暮れてゆく。


20031120/001077
『小僧の冒険』
ダウンヒル。其処に作用する重力。
ペダルを漕いで加速する必要も無い程、重力が暴力的だ。

ブレーキ操作で制動調節するしかないのだが、ろくに制動不能。
前輪ロックによる転倒を防ぐ為、
後輪ブレーキが先に主体となるのが平地の常識。
だが、スピードに乗ったダウンヒルだと、前輪ブレーキの重要性痛感。

カカカカカカカカカカカカと、異音を立ててブレーキが空転する。
 
なるほど。これが速度か。剥き出しの風圧か。

『ブラックエンジェルズ』の必殺仕事人にして自転車野郎の雪藤洋士。
彼は時速90km/hで疾走する。

ちらりと視線を向けたスピードメーターは51km/h・・・・・

現実世界でも、ツール・ド・フランスに出場する様な強者だと、
恐ろしい山岳コースを1日あたり300km、連日連発。
その行程で平均時速50km/h・最高速度90km/hは当然の領域。
 
今回、多透自身の最高速度は52.7km/h。
素人なりに肌で感じる風圧と加速度の暴力から、
強者の壮絶さが実感を伴って空想できてくる。
なんと恐ろしい領域で、楽しむ者が居るのだろう。

この素人が、
たかが数十分走るだけでも面白いのだから仕方が無い。

能動的に楽しむ事を止めなかった者達が、
栄光の領域に至るまでに、どれほどまでに“止まらなかった”か?
想像するだに恐ろしいのだが。


20031121/001078
『サウンド・オブ・ドラゴンフライ』
トンボは、飛行体の中でも格別の美しさをもつ。

ゴオゴオと、風の音しか聞こえない。
両の手で耳を塞いだ時の音にも、似ている。
音で在りながら、それは沈黙に繋がっている。

昔に乗っていたホンダ『ゴリラ』も50ccの小径車だったが、
自転車で18インチだと地面の圧迫感が増す実感が在る。
下り坂で速度を上げる程に、自分が前につんのめっているのか、
地面が起き上がってくるのか、錯視してしまう瞬間が在る。
 
旅で在ろうが日常で在ろうが、全周囲は未知で満ちている。
知らなかったものや、見た事の無かったもので満ちている。

小豆島山間部を駆け降りて、市街地へ至る長い長い坂に至る。
ゆるやかになった速度と、薄明色になった大気の中で、
ただ前方に在る空間に、1匹のナツアカネが飛んでいる。

おやっ 蜻蛉さまっ

そうすると・・・・・
飛びゆくトンボと奇妙に相対速度が合致する一瞬が、来た。

数秒にも満たない濃縮時間の中で、
真っすぐな胴や高速の羽根や複眼の輝きが、静止して見えた。
 
感覚的無音と、感覚的無時間経過の中で、
ゆらりとした残光が蜻蛉を染めるのが見えた。

これかっ!? これなのかっ!?

この日この旅の、無形報酬。
記憶に在るものと記憶に無いものとの、狭間で光るもの。

20031122/001079
『小僧の冒険』
志賀直哉氏の作による『小僧の神様』を、小豆島行の少し前に再読していた。

ずっと以前に読んだ時は、
年齢の事もあってか奉公人である仙吉に感情移入していたのだと改めて気付く。
今にして、
若い貴族議員Aの逡巡にこそ、作品の基軸が在ると解読できたようだ。

Aの、自身の行動に対する姿勢。
ちょっとした善行においても、
本能的なものか自己満足からくるものか、秤に掛けねばならない実直。
小僧仙吉に神様であるかの如く感謝されても、
客観の自分に自問自答して“淋しい感じ”となるAの逡巡。
 
文学が文学で在った頃が、かつては在ったのか?
今は、そうでないのか? 今も、そうであるのか? 自分に語る言語力は無い。
だが、そんな事実とは全く別軸で、その日の多透は逡巡していた。
 
小豆島市街地へ向かう途中の峠。
そこで待っていれば、余裕を持って港行きバスに乗り、フェリーに乗れた筈。
それなのに、調子づいてギリギリまで徘徊していた自分。

朝のうちに目を付けていた大型古本屋にも突入し、ツーリングマップルを購入。
挙げ句の果てに、見知らぬ町の夜に迷う。地図は買ったのに。
世界最小の海峡を渡りそこねて、もう一度、島外周道路を十数分疾走したり。
あの暗い夜道で、子連れ美人人妻が通りかかり、道を確認できなかったら?

島から出るフェリー最終便にギリギリ間に合う(気がする)バスを待つ。
既に18時を過ぎた。
むぅわりとした夏気温が残る中、次のバスまで40分。

旅に出たのは、本能的なものか? それとも自己満足の為だけか?
その自己満足は卑小なものか? それとも獲得すべきものなのか?

そもそも自分は、島から出られるのか? 
出たいのか?


20031123/001080
『帰巣本能とヤカン戦』
おやおや、あらあら。フェリーは半時間ほど遅れて小豆島に到着。
焦らない。あせって好転しない場合に静を保ってこそ、旅の利得。

本日の行程を振り返る高揚と、心地よい疲労。
2等客室のカーペット空間で仮眠満喫。
 
姫路港到着。既に22時過ぎ。
JR姫路駅に向かい、電車輪行にて帰宅する野望だが・・・バスが無い。
タクシーも見当たらない。なるほど、そういう港なのか?

港でタクシーを呼び出してもらえば良かったのだが、
手にした道具は使いたまなるのが人情。
自転車を組み立てて、夜間疾走開始・・・・・するも、真っ暗闇。
 
公園と工場街。流石は埋め立て地。LEDライト大活躍。
小豆島から出られたと思ったら、今度は人工島からの脱出か。
脱出口を間違えたら、多分、取り返しのつかない方向へ。

迷っている余裕は無い。
既に新幹線は無い。在来線の終電まで、おそらくあと半時間。

20031124/001081
『ブラボー!ヒメジスト』
走った走った。頑張れ方位磁石。帰巣本能全開っ! 明日はどっちだ。
線路発見!ハリキリボーイ。
自分だけの次元で調子づけ! 調子づいてくれ、頼むから。
 
えぇ、助かりました。本当に。
あの日あの時、姫路在住のナイスガイに遭遇しててなかったら?
そして、自転車で走りゆくナイスガイに道を尋ねなかったら?

えぇ、迷ってました。自覚も無いまま、全開で。

「や、このまま行くと、姫路とは全く反対方向ですね。岡山に行く道です」
『なんとっ! なんとか、終電に間に合いたいのですが・・・』
「かなりギリギリですね。付いて来てください。案内しますよ」
『本気で有り難いのですが、御予定は大丈夫ですか?』
「ビデオ借りに行くだけですから」
『かたじけない!』
「この辺り、迷いやすい所ですからね。近道、まかせておいてください」
『出会わなければ、明日の仕事が厳しいとこでした』
「困った時はお互い様です」(サワヤカに!)
『地獄に仏!』
「僕も、この姫路から琵琶湖まで自転車で走った事あるんです。面白いですよね」
『流石ですね!』
「ママチャリでした」
 
疾走!疾走!また疾走! 失踪せずに日常へと帰還する為。
大阪方面行き終電発車まで後6分! 30秒で自転車を折り畳め!!
発車寸前3分前、乗車完了。

明石を越えた時点で既に日付け変更。
大阪駅まで到着するも、その先の列車は無し。

まぁ良い。それもまた良し。自転車が在るじゃないか!

大阪駅改札を出た途端、
終電帰り人間を目標にした白タク運転手に声掛けられたりもしたが。

どうにかこうにか、午前2時。帰宅。

小豆島 2003年8月24日 快晴 気温35度以上
最高速度52.7km
島内走行距離100.2km
当日積算距離123.88km

あぁ、おもろかった。
振り返れば、いつだってそんなもの。

【小豆島ぷいぷい疾走編】完

20031125/001082
『ベンチャーズ対パイプライン』
チラチラとした旅行の合間に、『USJ』にも半年間パスポートの消化に行ったり。
相変わらずの混み様だが、
とりあえず今までで全アトラクション制覇できているので気は楽。

ゆったり気分で細部の美術仕様まで目を向けさせてもらったり。
パレードがクリスマス仕様でなかったのが残念なれど、
車椅子用見学エリアの設営とか案内が、手慣れた感じだったのを見て好感だったり。
 
そんな『USJ』帰り電車の車窓から、
JR環状線の弁天町・西九条間で、すっかり更地になった広い場所を見る。
大きな工場プラントが在り、その景観は結構好きだったのだが。

特撮番組で刷り込みされてきた身。
パイプラインが縦横無尽に迷宮の如く走ったり、
トラス構造が在ったりの巨大建造物には惹かれる。
 
と、言いながら、画像は明日香で通りすがりに写したセメント工場。

20031126/001083
『飛ぶ城の男』
去年に『iBook』を買い替えてから早1年。
12インチの画面は、流石に落書きには辛く。
イキオイの在るウチに15インチ画面の『PowerBook』に買い替え決行。

現在、データ移行に奮闘中。
今まで使っていた『iBook』は親父に譲渡なので、環境再整備も同時進行。

なにはともあれ、15インチ画面の快適満喫。
この先、この画面からどれ程の創造を刻めることか・・・・・

とかなんとか思いつつ、
青空を見上げると、ラピュタが飛行していたので大層オドロイタ。
 
遠眼鏡で観察すると、
円錐形の先っちょのへんから、おっさんが手を振りまくり。↑

20031127/001084
『オノコロンゴロンゴ』
『iBook』から『PowerBook』へのデータ移行どうにか完了。
あとは、親へ譲渡する為の親父データ移動。
週末遊びの為にも、眠らずにゴー。
 
もはや日記と言うのもおこがましい程に日付け無意味なコレやら、
試行錯誤しつつ書き貯めてはいる小説やら、楽描きやら。
1年の痕跡を振り返り、データ量の少なさに反省。
来年は、貯めたものを公開できる様に再加速。
 
画像は10月に行った淡路島の『淡路ワールドパークONOKORO』のもの。
世界の有名建築物が25分の1模型で園内各所に。
15年以上前に、職場女性陣と行った時の記憶が奇妙に抜けている。
なんで? 何か、追憶リミッターが?

展示模型群は当時からのものだが、老朽化は感じられない。
整備と補修のたまものだろう。
寺社仏閣でも同軸の思いを感ずるが、
近い時間軸での維持継続を目にする事は、自身の引き締めに使いやすい。

20031128/001085
『将軍さまは心配症』
 
遊びも睡眠も、それなりにこなせている身。
だから、「いそがしい」とはクチにしたくないのだが、
どうにもこうにも「気ぜわしい」今日この頃。
まぁ、これを書いている時点で既に今年も残り半月。
気ぜわしくても、そんなものか?

そんな渦中、正月に個人開催する西表島・波照間島旅行の宿は確保。
宿の数が限られている事もあってか、意外と混んでいる模様。

そんな渦中、ふらふらとソロキャンプに出たりもしてるので、
正月旅行の細部予定は未定のまんま。
まぁ、とにかくのんびりしたりうっかりしたりするのが目標なので。
それもまた良し。
 
万里の長城も行っては見たい場所のひとつだが、
この模型を見る限りでも、人が多くて気ぜわしそうだ。

ホンモノは、風化が進んだり、
観光地から離れた場所では地元の人達が崩して建築資材にしたりと、
色々と難儀な問題も在る史跡だそうで。

人間の“心配性”を象徴する史跡としても、スパイシーだ。

20031129/001086
『世界がもしも世界村だったなら』
『淡路ワールドパークONOKORO』には、
『淡路ワールドビレッジ』が併設されている。
要は、家族向けのキャンプ場だ。

今回は、カタギーズでの出動であったし、
各種宿泊施設が面白そうだったので泊まってみた。
 
画像は“アフリカン”と“六画堂”。
他には・・・
“ログハウス”“蔵“”パオ型テント“”トレーラーハウス“”高床式住居”が。

今回は“アフリカン”を選択。土の家だ。
思ったより選択に芸が無かったかというのが正直な感想。

照明が淡いものひとつしか無く、雰囲気は良いが暗い。
値段なりに狭いし、土壁に牛糞は混入されていなさそうだし。
定員4名で1棟12000円と、エアコン&電源付きで格安だが。
 
夜中、台風並ザンザン降り豪雨が在ったものの建物健在。雨漏り無し。
床は硬いが、借りたエアマットが思いのほか快適。

次回の機会が在れば、”パオ型テント“か”高床式住居”が狙い目か。

20031130/001087
『語るなら、髪にその手を伸ばしてから』
『淡路ワールドパークONOKORO』には、巨石遺跡の模型も在る。
 
アコガレのアレやコレやに頬ずりできる至福。
その中でも1番人気は当然、オルメカ君だ。
 
「チャンスの女神には後ろ髪が無い」というのは有名だが、
その由来となった女神像は無さそうな予感。

弁天様は芸事担当だし、なんかフサフサだし。
ギリシャ神話のテュケー さんは盲目だそうなので、全力疾走しなさそうだし。
ヒンドゥー教のラクシュミさんは人妻というか、最高神ヴィシュヌの奥さんだし。
フォーチュンの語源と言われる、ローマ神話のフォルトゥーナさんがそうなのか?

でも、オルメカ君の後ろ髪は・・・よくわからない。
わりと日本でも見かける顔だが。
 
でも、チャンスの男神と言えばやはり、ビリケンさん。

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