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『大作戦日誌』20030101-20030131

20030101/000771
『20030101』
まずは動く事。
誰かを否定して得心するのではなく、自ら動いて自分をつくってゆく。
そういう当たり前の初心を心掛けて2002年は様々な場所に旅して歩いてきた。
新しい年、何処に行き何を感じて手に入れられるのかは未だ未知のままだ。

2003年に於ける旅の鍵言葉は“日本一”!!

勿論それ以外の所にも積極的に行くのだけれど。
変化と多岐に渡る地形に満ちるこの国に、せっかく生まれたにも関わらず、
未だ至っていない地が在るのは勿体ない。

ならば“日本一”を鍵言葉に、
時間と予算と体力の許す限りの旅をしてみようではないか!


まずは、“日本最大の湿原”である釧路湿原を目指すこの正月。
はたして
タンチョウヅルには会えるのか?
そして事前に画策しているイベント群を無事に連続クリアできるのか?
そして
屈斜路原野へ辿り着く事は出来るのか?

 まずは旅立ちの新年。

20030102/000772
『帰還豊富』
無事、北海道正月旅行から帰還。
帰還自体は5日夜で、それから溜まっていた書類業務を完遂。

空を飛ぶわ、地を駆けるは、雪路を走破するわ、白鳥にたかられるわ、
腰まで雪に浸かるわ、露天風呂貸切りだわ、監獄跡見るわ、等など、
今回は様々なカタチで収穫の多い旅となったので、
英気充填・疲労回復・
無節操やる気満杯の仕事始め。

今年は何が出来るやら。

土曜に仕事の在る身にとっては、去年より連休が少ない暦。
そのぶん、移動距離はともかく中身ある旅を重ねたい所存。

『WHF』も、日程が連休と絡む事が多そうなので当面は旅優先で参加未定。
そのぶん、リプミラ製作時副産物の素体を活用して
一品物を幾つかつくろうかと。

小説も、更新は停滞しているものの、実は
ネタ仕込みをしているので。
も少し“見た目”にも気を使ったページにしていければ、と。

まずは、今週末12日の
高野山登山に向けて心身調整。


20030103/000773
『初巫女と自転車』
2003年1月1日

いつもの如く午前7時起床。5時間眠ったので疲労回復。

飛行機は14時。12時過ぎには出たいトコロ。
近所の神社に初詣。おみくじは中吉。
巫女さんにも会う。お神酒。
快晴なり。
  

オャオャオャ。去年に買った雪靴が見当たらない。
あれでかなりの悪路を走破できたのに。物置に無し。
だが、この時点で迷って出発を遅らせるのも不様な話。
臨機応変リーの精神で、
ニセ登山靴を履く。
迅速こそ最速の靴。合わなければ現地調達すれば良いだけの事。
北海道コンビニの一部では長靴も売ってるそうだし。
(この時は未だ、“買う時間余裕が無い未来”など露ほども・・・)

そうこうしているウチにJR難波駅到着。流石は正月早々。空気がのどか。
元旦も昼になるとゆるやかな人数と交通量。バスで空港へ向かう事にする。
待ち時間ほとんど無しのタイミング&進路クリア。さいさき良し。
(この時は未だ、“乗り継ぎが良すぎて忙しい未来”など露ほども・・・)
  
オャオャオャ。
バスの車窓から、自転車の
ラブラブふたり乗り発見。ステキ20代。
今あらためて書いてみると直球言葉なタイトルが渋すぎる、
『明日に向かって撃て!』の自転車シーンを思い出すほどに。

「自転車ふたり乗りしたら、結婚したのとおんなじなんだぜっ」
  
や。
高校の時、
アコガレの先輩を乗せて駅までドキドキで走った黄昏にも、そのシーン思い出したが。
風のたよりも無い今となっては、幸多かれと願うばかりになりにけり。

20030104/000774
『未見がいっぱい空への旅』
関西国際空港は、巨大施設ゆえの機能美が在る。
此処だけが特別なのではなく、
空間を区切っているからこその巨大感が在る場としての心地よさ。

昨年、展望棟から滑走路を見学した時、
滑走路を含む敷地の幅狭さから小ぶりな印象を受けていた。
それでも、内部に立ってこそ皮膚に来る巨大感もまた在るものだ。

空港女性職員の
キビキビっとした立ち居振る舞いに好感。
就職戦線の中、着実に努力を実力に変換してきたのだろうなぁという、
気持ち良さを感じる。
売店で売っている女子職員ストラップフィギュアも何気に出来が良い。

どうやら・・・
制服淑女に弱いらしい自分を発見。

搭乗ゲートに至るまでの売店で時計購入。
カラビナみたいな留め金付きの1000円もの。
通常使用しているチェーン付きの懐中時計では、
手袋のまま時間確認し辛いと判断しての購入。
デジカメ等を格納したウエストバッグにブラ下げておくと、
雪路でも楽々タイムイズマネー。オススメ。
生活の知恵というよりも去年に
色々と懲りた経験則。

同系列の知恵として、
100円均一で購入した“直径10ミリ程度の丸形温度計&方位磁石”を、
防寒着のジッパーにリングで装着。
精度はともかく、ちょっとしたデータ収集の楽しみ。

数字に振り回されたくないと思いつつ、
数字を手に入れる事で足元を固めたつもりの安心感。
現代病というよりも、何世紀も連綿と続く人類病か。

20030105/000775
『ディック・フライヤー』
当然の如く、離着陸前後はデジカメ禁止。
せっかく“日本全国1万円”のウルトラ割引日でありながら、
空席の多い機内でゆったり窓外を見る。

チカラワザで飛ぶ乗り物と知りつつも、安心と信頼をしてしまっている自分を見る。
飛行機に乗るのは・・・たしか、9年ぶりだというのに。

動き始めた窓外の景色。
職員の方々が、“2003年もJASを!”との横断幕を持って立っている。

その瞬間、ある現実に気付いてしまう。
JASとJALは統合される筈。
ならば何故に
機体合体して双胴機にするのがスジではないのだろうか?

そういえば、座席も2列と3列の横5席しかない。
以前に乗った機体では横10席ぐらい在った筈。
通路を挟んで
非対称の座席数というのが腑に落ちない。次元断層っぽい。
これはもしや双胴機の実動によって廃棄された余剰部分が別次元で再結合し、
この現世に舞い戻ってきたのではないのだろうか?
もしやすると私は
地図に無い飛行機に乗ってしまったのではないのだろうか?

ま、それはともかく機体は飛んだ。
以前に在った“操縦席からの視点映像”が映るモニターも無いまま。
もう少し不安感や高揚感をあおるBGMや演出が欲しいところだ。

日常からの遊離。
飛ぶ事はショーであっていただきたい。

20030106/000776
『飛べ!スーパーカー』
一瞬のチカラ溜め感の後、機体が浮くのが股間に伝わる。
フラップが
“うにょり”と作動し、ベルヌーイの法則が顕在化してゆく。

微妙な感じて小雨ちゃんが窓に水滴を付けていたのだが、
その速度の為、列車の窓の様に流れずに空中へ帰化してゆく。

動力と空気抵抗と気圧差で、外壁が揺れうねるのが面白い。
多重になった窓。客席面の1枚に気圧調整用に小さな穴が開いている。
理にかなった細工というものは、こうしてさり気ないものなのか。

一般的旅客機だと、離陸速度は300km/h台になるそうだ。
翼つけるとカウンタック飛びよるかも知れんなぁ!
LP500Sのカタログ性能で最高速度315km/hらしいから。
“離陸”というのは高度10mに至るまでを言うそうなので、
そこまで上昇できるかはともかく。実験希望。

数秒で既に雲海。高度5900m。更に上昇中。
視界の奥行きが急激に拡張され、光は増強される。
太陽光に鼻粘膜刺激され、苦沙弥先生も登場する始末だ。
 
雲海に乱反射する光群。
美しすぎて眩しい情報群は視覚のみに留まらない。
脳が光の圧力を感じようとしている様を別領域が知覚する。

雲間から町が見える。機内の液晶モニターに現在地を示す地図が現れる。
奈良上空を高速で移動している。
ゴルフ場が地上絵に見える。
シートベルト着用サインが消える頃には既に鈴鹿上空。
 
雲海が大峡谷の如く彼方へ連なっている。
その巨大な姿はやがて大陸にさえ見えてくる。
雲間は大河であり、空が大海の様だ。

20030107/000777
『高高度演歌』
機体は琵琶湖南東を抜けて岐阜県上空へ。
光源の方向変化が同じ光景を同じに見せない。連続する異邦。
山々の稜線が切り立ってくるのが解る。その頂は雪で既に白。
鋭角的なそれは西日本のものと趣を異にする。

高度8800m 外気温マイナス52度 速度907km/h
 
御岳山・乗鞍岳・穂高岳・剣岳・・・・・
中部山岳国立公園の上空を飛んでいるとの表示だったので、
有名な山々を地図と肉眼で確認しようとする。
しかし、その連なりは雄大であり経験の浅い多透には困難な作業だ。

昨年は
日本地図を眺める時間が例年になく多かったし、
座席の無料配付雑誌に航路略地図は在るというのに。
 
日本海が見えてきた。眼下の川は糸魚川か?
その西方、親不知の海岸線を20年程前に
延々と歩いたのを思い出す。
新潟と佐渡の間を抜けているようだ。
海に
船影。なるほど、この高度からでも目立つものだ。
大艦巨砲時代に
“空”からの視点を得た者の胸中を想像する。

目まぐるしい程の情報量に心地よい緊張は実感できているものの、
世界を知覚しきれていないもどかしさ。

三次元世界に住んでいながらも、
日常とは異なる
“高さ”を得た途端に現在位置が不確かになるとは。

かつて眼下の地を旅して歩いたというのに、
高空からその記憶に
噛み付ききれないもどかしさ

だが、ここで疲れてなるものか。
知覚しきれていない世界が広がっているのなら、
その現実に
うなだれるよりも彼方への広さを喜べばいいだけだ。
 
飲み物を配ってくれていたのでジャワティーを戴く。
おかわりが欲しければタイミングを逃してはならない。

ひと息いれようとジャワティーをすすりながらも、窓外から目をはなせない。
音楽でも聞いてみようとヘッドホンを着装。
いきなりシカゴの歌声が聞こえてくる。
記憶の中で曲名が混同されているが、たぶん「クエスチョンズ67/68」だと。

チャンネルを変えると、
椎名佐千子
「御意見無用の人生だ」ソウルフルに始まった。
こいつは春から豪気だね。

20030108/000778
『地球の寝言』
ボンジョビの「バウンド」がヘッドホンから聞こえてくる。

ずっとちいさい頃に読んだ、『本当にあった恥ずかしい話』的な本の中に在った一文、
“わたしは英語というのは、
 むちゃくちゃな言葉を言えばいいもんだと思っていました”
というのを思い出す。

雲が生きている様だ。
海洋規模の液体生命体“生きている海”には『ソラリスの海』という名作が在り、
雲状もしくはガス状生命体は『STARTREK』等、色々な作品に出てくる。

思考遊戯をすれば、
人類にとって
未知の空間生命体が雲海の中に棲んでいる可能性も面白い。
あの浮浪雲はヒトの知覚と決して交わらない次元で思考しているのかも知れない。
そして、むちゃくちゃな言葉で思考体同士の秘密会話をしているのかも知れない。
 
そしてそれをも孕んで生きている地球という空間の面白さ。
ガイア仮説を牧歌的・楽観的に捉えて、揺りかご的巨大生命思想に依存するより、
数多の生命機構総体としての惑星、この凄い
“場”を学んで知覚してゆきたいと思う。
 
だが、こうして高空すなわち雲の高度からの視点を得て見ると、
雲の群れはまるで惑星生命体が持つ
表皮細胞の様だ。

カミナリが地表方向だけではなく
上方へも向かう事が知られて早幾年。
高高度における雷放電発光現象を人工衛星から観測するプロジェクトも進んでいると聞く。

地球が公転周期を突っ走る際、実は、ヒトに知覚不可能な領域で、
“宇宙ドアノブ”とニアミスして静電気がバヂッと発生しているのやも知れぬ。
もしくは、発光現象を解読してみると
むちゃくちゃな言葉だという可能性も在る。

そしてそれが明るみに出るのは、明日かも知れないのだ。

20030109/000779
『オ・ガ』
男鹿半島らしきものが見えた気がする。
確信できないのが辛い。

地図だけに留まらず、もっともっと
色んなものを見ておくべきだったのだ。
9年前に雲海と地上を飛行機から見た時、
“成長させよう”と思った筈の自己領域が未発達すぎるのを自覚する。
 
雲の動きに、
“層”としての大気流を感じる。
1年前、列車で越えた海峡を飛び越える。
海が白く見える。
国内線は面白い。
襟裳岬を越えたようだ。

日常というものを自分が埋まる砂場にしてしまうのなら安易に過ごす事も可能だろう。
だが、
“物語”をつくろうと思うならば、
そして誰かに届くレベルの“物語”をつくるのならば、
世界を立体視しなければならない。

地図平面だけではなく、歩き、動き、触れ、
そして高さは勿論の事、時間をも付加した立体視。

去年は、そういうものを自分に叩き込む準備として旅をしていた様に思う。
今年は、更に加えると同時に手にしたものを発展させねばならない。

そしてそれは当然の如く未だ足りない。


20030110/000780
『不可視噛領域』
そうして黄昏の時が訪れる。

この同じ地表の何処かでは、次に来る闇の予感に恐怖している人も居るだろう。
明日の予感に自己の何かを駆動させる人も居るだろう。
 
光が変貌をとめない。
長い長い海岸線が眼下に在る。
見なれぬ北の海色が、彼方で大気と触れ合っている。

機体の左後方に夕陽が存在を主張し始める。
彼方の雲と機体の翼、そして膨大な空間の色が流転する。
着陸に向けてデジカメが使えなくなるので肉眼視に集中する。
機体が旋回し、今まで後方に見えていた太陽が、自分の窓の正面へ来てくれる。

その眩しさと遠大なる距離感。
あれはまるで“この世の果ての色”に見える。
そしてそれが動き続けているのだ。

光景そのものに噛み付いて血肉に出来るなら、どんなに楽だろう。
だが今は、“物語”に言葉を刻印する時の為に記憶を刻印するのみだ。
 
『あまつかぜ雲のかよひぢ吹きとぢよ乙女のすがたしばしとどめむ』

六歌仙のひとり僧正遍昭が感じたのは、
単に乙女の美しさだけではなく、
空間そのものの光だったのか。

それが今になってやっと解るとは。

20030111/000781
『雪闇架空映画』
飛行機は着陸してしまうと少し寂しい。やはり、飛んでこそ。

釧路空港からJR釧路駅への連絡バス、乗り継ぎ良好。
良好すぎて貨物室からの荷物待ちに少々
ハラハラ感。
バス1本逃すと晩ご飯消失の危機&宿到着が総計2時間は遅れる。
小心者の身には結構
タイトロープな時間割りだ。
“人生いたる所タイトロープ在り”というワケか。

空港から駅まではバスで50分程。910円。
硝子の向こう側から伝わってくる冷気。昨年の感覚が蘇る。
やはり冬こそ北海道か。冬しか知らないけど。

昨年の
積丹岬旅も自分なりに充実してはいたが、
強行移動が連続した事もあり、今回は宿泊と日替わりイベントを充実野望。
“正月に南の島”というのも憧れるが、
まずは北海道における別の楽しみを実感してから
“次”に行こう。

16時台だというのに、空気の色は既に夜。
車外に広がる暗闇が田畑なのか空き地なのか荒野なのか不明瞭。
所々に
廃車が積み上げられた“車墓場”が見える。
自分の中で、それが
郊外を示す記号になっている事を再確認する。
鉄塊群は雪の白と夜の黒の挟間で、静かにそして素早く車窓から消える。

この冬の間も、もしかしたら今年に限らぬ日々においても、
誰ひとり手を触れぬような場所が、こうして車が行き交うすぐ傍に在る。

そういう場所の存在頻度・・・というよりもこの場合、
場所からの広がりの有り様が大阪と明らかに異なる気がする。
それは、生活空間や土地スケールという言葉以前の、
“広がり”の匂いだ。
 
窓の外に、幾つ目かの“車墓場”が見えては流れ消える。
あの頃に此の地で高校生をしていたならば、
きっと、端にも棒にも掛からない映画もどきを撮っていただろう。
あの鉄クズの山で。

20030112/000782
『スノーホン』
バスの窓からの風景が、町らしくなってくる。

『おたのしみストアー』前には『おたのしみストアー前』のバス停。
「単なるスーパーには留まらないぜ!」という凄みの在る名だ。

元旦早々なので開いていない店も多いが、釧路の町は流石に賑やかだ。
『BOOKOFF』まで発見。北海道で見るのは初めてだ。
駅から歩いて行ける距離ではないし時間も無いが。
きっと・・・
あの店舗の中には何時もの『BOOKOFF』が広がっているのだろう。
全国規模のチェーン店では定番の感覚なのかも知れないが。
『BOOKOFF』は何処の町においても、
“どこまでも『BOOKOFF』”な気がする。

“本”という、様々な時象を内包する物体が多数集結する事で、
店舗側にも不可知な次元連接が生じているのかも知れない。

車窓から、『いわよし書店』という個人経営の古本屋が見えた。
何故か、ほっとした。

20030113/000783
『誓いのスーパーカー』
素直にJR釧路駅、到着。
まだ17時だが、空の色は既に夜。

雪は止んでいるが、町は雪の白だらけだ。
釧路の町は道東でも雪が少ないと聞いていたが、大阪感覚では大雪。
急ぎ足になって滑らないように留意して歩く。
北国魅力のひとつに、凛と張った冷気が在る。
しかし、信号待ちしていて漂ってくるのは煙草スメルばかりだ。
釧路空港でもイキナリ煙草臭かった。
横断歩道前の足元には、踏み固められた雪氷に閉じ込められし吸い殻多数。
ポイ捨て防止条例は、雪国にも必要だろう。

時報に合わせてか、
駅方向から
「恋はみずいろ」のメロディが流れてくる。
宿へ向かう列車は15分後発車。
時間待ちを利用して、早速、自販機120円アイスを食す。
青春の味チョコミント。充・填・完・了。

駅舎端、自販機と公衆電話が並び立つ出入り口。
奇妙に人通りの無い、凪の様な小空間だ。

佇むのは3人。
推定
50代男性。人待ちか。少し疲れた感じなれど、目が死んでいない
壁際でもなく通路中央でもない
3/4地点に立ち尽くしたまま、
携帯電話の液晶画面を凝視する
女子高校生
そして、アイス齧り続けの多透。

其処に在ったのは、1辺2.5mの三角形空間と奇妙な沈黙時間だ。
ストーリーテラーを目指すなら、
このシチュエーションで何か書けないと嘘だと思える程の微妙な均衡。
されど列車の時間が近付いた身には、観察余裕の無い情けなさ。

あの2人は
“かつて壮絶なバトルを展開したスーパーカーの生まれ変わり”
と、いう事にしてソソクサとその場を去る。

ホーム連絡通路に防風扉が在るのが北国テイスト。
夜の中に、1両だけの車体が滑り込んでゆく。

二重窓は簡単に曇らない。
しかし見えるのは何処まで続いているのか解らない夜ばかりだ。
線路沿いに、ホテル
『バッキンガム』『ジャンポール』のネオンが過ぎれば、
後は本当に夜ばかり。

オレンジ色の探照灯に照らされて、雪が味わい深く染まって見える。
まるでスーパーカーのテールランプ。

20030114/000784
『新雪を踏む』
JR釧路〜とうろ 350円
釧路から5つ目の駅だが、駅間距離は大阪感覚の3倍拡大の感。

ログハウス風外観を持つ
駅舎は新しく綺麗。
大きくはないが、風景に溶け合う適切な空間を形成している。
駅舎には喫茶店が在り、そこの方が常に清掃してくださっている様だ。
 
多透の他に、2人は降り立った模様だが、
雪にあふれたホームに少し佇んでいると既に人影は無く。
無人の駅を出ると、迎えてくれるは星空。
少し曇っているようだが、それでも明らかに
星数密度が高い。

駅前の広場は雪で白く統一されたまま、
あっけらかんと広く。
車が踏み固めた所以外は30cm以上に白く淡く積もっている。
 
4車線は楽々に設けられそうな道が左右と前に続く位置に立つ。
その静かな広さの中に、今さらながら
“遠くに来た”実感が訪れる。

飛行機から見た“広さ”とは異なる、
自分の足で立っている場の“広さ”だ。


この、感じ。

この地には更に大きな“広さ”が在る事を知りつつも、
心地よく足元でギシギシと音をたてる雪の圧力に
“旅先”を実感する。

幸先がいい。

旅の中で
“旅の始まり”を実感する。
それは感じられて当然至極に思えるが、
“本当に認識できた一瞬”の意識レベルは一段上の高揚を持つ。

ただ単に自宅から出る事だけが出発ではなく、
たとえそれが日程の終わり頃であろうと、
“これが始まり”と思える一瞬が訪れる事が在る。

多透の場合、
それは
“広さ”“広さの中での孤立”が扉となる事が多く思える。
  
勿論、“始まり”は
一度の旅で一度だけのものではない
他者には何気ない時空間で在っても、
自分にだけは認識できる
“始まり”を幾度も重ねる事で、
旅の充実というものが形成されてゆくのだと思う。

20030115/000785
『ひとり図書館』
『釧路湿原とうろユースホステル』までは駅から200m。
ぐるりと視界を見回せば、それらしき建物はすぐに解る。
通り道、雪に埋もれそうな自販機にてペットボトル茶を買っておく。
YHには自販機が内部に設置されていない所もあるので、
“夜中のひとくち”の為に事前工作だ。

清掃が行き届いているので実に印象が良い。
今回の旅で宿泊させていただいた、
『釧路湿原とうろYH』『清里イートハーヴYH』『屈斜路原野YH』は、
どれも綺麗な施設で好印象だった。
空間にゆとりが在るので印象としてはペンションの様だ。
3軒だけで判断するのも早計かも知れないが、
北海道のYHは施設水準が高いように思える。

『釧路湿原とうろYH』では、各部屋は勿論の事、
トイレや廊下にもパネルヒーターが設置されており、上着無用の快適さ。
暖か過ぎるのではなく、
快適な室温が保たれているのは流石だ。
冷暖房に頼るあまり、
自己体温調節機構が鈍っている現代人が多い時勢に、
厳寒の地に住む方々の適切な節度を感じる。
 
2階への階段を登った所の空間にはマンガの詰まった本棚。

天井は高く、
大きな羽の扇風機がゆったりと回る。
そしてその風に乗る様に、
タンチョウヅルを模したが揺れる。
タンチョウヅルの翼が風を受け、全体が半回転を繰り返すのが面白い。

既に先人がそうされていた様に、床に座り壁にもたれて読む。
音は外の雪に吸収されて、心地よい静寂が在る。
気が付くと、その場には多透
ひとり、で。
遠い何処かの図書館に居るようだ

ぴきーん!!

朝からの移動感覚と、あまりにゆるやかな静寂の格差に、時間を忘れていた。
20時から、釧路湿原の観光ポイントをビデオ等で紹介してくれてる筈っ!
しもうた!

元日早々、こんなボケをっ!?

・・・まぁいい・・・
それもまた良し!
1年の計は元旦に在り!
残すところ364日を引き締めていけば良いだけの事ッ!!
良し!!

20030116/000786
『銀河鉄道肉眼視』
大きめのユニットバス。
風呂場の
には雪が積もり積もっているというのは面白い感覚。

1階に降りて、食事&談話スペースにて暖かい茶をいただく。
一隅に
ガラス張りのサンルームが在り、其処から外が良く見える。

建物は丘の上に在るので、駅舎を見渡せる良い視点。
鉄路は眼前を左右に敷かれている。

もうすぐ、この夜
最後の列車がやってくる。

硝子越しに充分見えるものの、やはり生で見たいのが人情。
今か今かと待ちきれずに、硝子戸を通ってバルコニーに出る。
妙齢の女性も一緒に出ていたのだが、スパークする寒さで危険体感。
「こりゃたまらん」と、皆、出たり入ったり。
ちなみに、YH指定の喫煙所はこのバルコニー。

雪に吸収された静寂と、遠い夜の木々影の向こうから、列車が来る。
「ネコバスみたい」と1人の女性が言う。

来たのは網走方面行き列車。
単線ゆえに、駅にて釧路方面行き列車と行き違い作業をするのだ。
 
月明かりも見えない程の夜闇の中から、
ふわりと光が走って来るのは実に幻想的だ。

数時間前に自分が乗っていたものと同じ列車が、
別の世界の存在に見える。

昨年の、移動連続のみの旅も良いが、
その日に通った道を宿から眺めるというのも魅惑的。

20030117/000787
『銀河鹿』
そうして、その夜最後の列車は走り出す。
“銀河鉄道”とも呼ばれるように、
地と空の境界が溶け合った様な闇の中に遠ざかってゆく。
網走行きの列車は、ゆるやかにカーブした鉄路に
光の弧を記しながら、
夜の中に
見えない橋の上を渡る際に音の変化だけを現して走り去・・・

・・・去らない。
 
なんか、橋を過ぎたあたりで停まってしまっているではないか!?
どぅやら・・・
シカと接触してしまったらしい。
釧路湿原にはエゾジカが生息しているのだ。

実は事故も多いとの事。
この路線はワンマンカーな為、運転士が単独で
処理しなければならない。
特別天然記念物指定のタンチョウヅルが相手だと更に
大変だそうだ。

十数分後、列車の明かりは再び動き出した。
 
早朝、付近へ散歩に行った方に聞くと、
「特に痕跡は無かった」との事。

傍観者には、全ては闇の中だ。


20030118/000789
『しつげん実行命令』
日本最大の湿原である釧路湿原。
釧路湿原国立公園総面積が26861ha 釧路湿原総面積18290ha
はっきり言って、
何処から何処までやら広すぎて把握できず。
宿泊地『とうろYH』は湿原の喉元に位置する
塘路湖のほとり。
 
YH主催の
『早朝散歩ツアー』はガイドさんもついてくれて、
効率良く景観の良いポイントまで案内してくださるとの事。

実は、ミーティングに出遅れた為に申し込みできていなかった。
が、早朝に飛び入りでも構わないと言ってもらえたので、
安眠突入
明朝、5時45分に集合だ。

考えてみれば、元旦早々に宿へ泊まるのは久しぶりだ。
昨年は青森発札幌ゆきの夜行列車泊だったし。

“外”の雪の量そして夜の闇、それらの含有する時間を夢想しつつ・・・
・・・なんか、眠いやら眠たくないやら。まだ23時だし。

そうこうしているウチに、二段ベッドから
イビキが降ってくる。
相部屋での宿泊だから、それもまた良し。本人気付いてないし。
「おっさん、おっさん、・・・あかん・・・あかんって!」
なんか、寝言も降ってくる。
「・・・おっさぁぁぁん」
なにやら苦しい夢を見ているらしい。辛そうだ。
おっさんと何か?!

まぁ、それもまた良し。騒音の中でも眠れる身だし。
それもまた旅の彩り。

・・・・・あかんがな!!

5時45分に集合のソレが、既に6時20分。はぃ、
寝過ごしまちた

元々、事前予約が出来ていなかった身なので、
皆に迷惑も心配も掛けなかったのは良かったが。

ふふふのふ。1月2日から早朝ボケかましとは。
今年の吾輩もなかなかヤるわい!

昔の吾輩ならば、それを誰かのせいにしてクサっていたトコロだ。
鯛は腐ってもタイだが、人は過ぎた事をクサってもタダの後悔。
そんな事は所詮、時間の無駄。
俺の事は俺が悪い!
湿原散歩はできなくとも、
心に失言無し!

朝食までの間、雪中ダッシュで宿の周囲を徘徊。
午前7時からの朝食をいただき、
僅かでも歩を進めてくれようと早速出発っ!!

良しっ!!

20030119/000790
『70分使用法』
1月2日をずんずんと歩き出せば其処は、
朝っぱらから
コントラストの強い誰も居ない雪道。

列車の時間までは、あと
約70分
その時間内に僅かでも付近を徘徊しようと足を進める。
 
少し歩みを進めるだけで、広大な雪景色の中に自分が在る。

雪の反射光のせいか、青空の色が深い。
去年は、ほとんど吹雪いていたような印象なので、新鮮だ。
北海道の青空とは、こういう
深色だったのか。

眼前には、雪色と枯れ色の入り交じる湿原が存在を誇示する。
その
印象は、町の中では無自覚になりがちな“大地”そのものだ。

舗装路と土道それぞれの、雪の踏み締め感の違いを楽しむ。
膨大なカタクリ粉の上をゆく様に、日向の月面を踏む夢のように、
ひと足ごとにギシリギシリと自己歩行の実感が在るのは趣き深い。
 
橋を渡って、
遠く遠くまでずっと長く続く道に至る。
雪の白で雑多な視覚情報が昇華されているせいか、
彼方までの道に見える。
この地ではありふれた一般道が、
旅の身には特別な道になる。

結局、記憶に深く残るのは、残っていると思うのは、思いたいのは、
眺めていただけの風景ではなく自分で歩いた道のりだからだ。

美しい道であろうとそうでなかろうと、其処を歩いた記憶刻印が在る。

その実感を得る為と、ただ単純に歩行の面白さの為になら、
時間は、使う価値が在る

20030120/000791
『即即目測』
付近の案内図によると、湿原を望む幾つかの展望台が在る。
その中でも最寄りの場所までは2km未満。
行けるか? 行けるだろう。
たとえ滞在時間が数分であろうとも、
行かなかった事を後になって悔やんだり言い訳するよりは
健康的だ。

軽く汗ばみながら頼りない早足で、まっすぐな道を行く。
時折に通り過ぎてゆく自動車と、変化してくる山までの距離感に、
ただただ、まっすぐな道での
自己移動を認識する。

そうして近付いてくる山の
稜線
ゆるやかに確実に解ってくるのは、
時間が足りないという現実。
目指す最寄りの展望台は、山の上だ。
あてずっぽうの三角比すら未使用な
目測で、標高200mは在る様に見える。
高低差を含めない距離では間に合う数字でも、登るとなると別問題。
そこまで高効率の運動は一般人には無理。無念。

また来よう。

悔しいが、悔やんでも時間が過ぎてゆく。潔く転進。
まずは、列車に乗って湿原外周を移動し、次の目的地へ向かおう。

「はうぅっ!」

決意の昂揚に酔う間も無く、
残り時間と帰り道の距離が脳内で
チャカチャカチンと計算される。
振り向けば、当然の如くに
長い長いまっすぐな道
自分は本当に
あんなにも遠くから来たのだろうかと思う程に、
まっすぐな道は遠く遠くから在る。

あぁ、おもろい。

まっすぐ走ろうとしても雪でフラつき、
自分で出せる筈だと夢想する全速と現実の誤差。それすら面白い。

川はあんなに凍っているのに、汗ばんでくる。
上着を開けて風を通しながら、クチの中に酸化した味を感じながら、
湿原の外周、塘路湖のほとりを不細工に走る。

誰にも見られていないのだが、
走らないと遅れる事を自分が知っている。

20030121/000792
『鹿よ!鹿よ!』
不格好な走りの成果は、少しだけ実る。
その勢いのまま、
駅前に立つ展望台に登ってみる。
階段を埋めた
粉雪が、踏み込んだだけで軽快に霧散する。
湿原を見渡すには高さが足りないものの、夜に
星を見るには良さそうだ。
 
誰も居ない駅前の
地上に戻り、雪に覆われたベンチに座る。
雪がまるで雪
布団の様に思えたので、雪ベンチに横になる。
防寒着の防水性と氷点下気温のおかげで、冷たさは感じない。
体の重みで押し固めた雪でさえ、手で払えば即座に離れる。

空は素直に遠く青く。
なにやらとても贅沢な気分だ。


横になったまま、
冷気で心地よく張った空気を、深呼吸する。

「嗚呼・・・・・・・・・・・・鹿くさい・・・・・」

動物園や奈良公演でお馴染みの、鹿の匂い。
記憶の中を検索するが、宇宙人目撃談の中に、
「間違いねぇ、あれは確かに鹿の匂いじゃった!」証言は無い。
それ故に、鹿型宇宙人の接近というワケでは無い筈だ。
フェロモン?

寝転んだままで、ぐるりと視線を動かす。
しまったっ!!
雪に惑わされて気付かなかったのは自分の方だったんや!

塘路駅の横、金網で囲まれた空間に、
数頭の鹿が
のほほーと暮らしているではないか!
 
野生野郎との遭遇なら
『スタンドバイミー』のワンシーンみたいだが、
金網越しの見つめあいは、鹿の方から視線を逸らす。
我、勝ちたり

『シカ公園』の看板まで在る。不覚であった。
そうか、この地でのシカはそれほどまでに身近な生き物っ!
そもそも奈良では
神獣なり。
熊祭りが在るのなら、鹿祭りも在って不思議ではないのではないか?
このまま見つめ合って
でもされれば、村オサとかが出てきて、
古来からの掟に従って村の繁栄のため強制的に鹿と暮らす事に・・・
だとすれば、長居はデンジャー。
嗚呼、我は土の道無き町で暮らす者ゆえに!!

・・・ハッ?! そういえば、
ユースホステルのお隣宅に
も居た。
 

ぼくの馬鹿。

20030122/000793
『ツーツルトレイン』
そうして列車はやって来る。
この路線で運行されているのは単両のワンマン車。
単線なので、やはり駅にて双方がすれ違う。
 
鼻糞が溜まりにくい気がする。大気は静謐だ。
 
運転席後方の空間に立ち、雪の中をまっすぐゆく鉄路を見る。
側方に見える湿原では、白の中に
茶色が映える。
それは枯れ色ではあるが、それもまた
生きている植物の色だ。

通り過ぎる駅で、黄色い
ラッセル車が雪景色に映える。
警戒色というものは鮮烈だ。
今夜の宿が在る
摩周駅を、今は通り過ぎる。

気が付くと粉雪が降っている。
粉雪の中を舞う様な・・・鳥を見た。
タンチョウヅルだ。
「ツルの来る駅」と看板が立っている事に偽り無し。

釧路湿原の鶴見台には行けなかったが、
窓越しではあるものの、
丹頂鶴の目撃は出来たわけだ。

なるほど、囲いの無い大地に、鶴は映える。
白と黒、そして赤
人間は、どうしても其処に鮮烈な美を覚えてしまう。

美しさのみで特別天然記念物指定された訳ではないものの、
その美しさ故に納得された心情は在っただろうし、納得できる。

弱さもつ生き物でも、その美は強い

空の遠くを、白く大きい鳥が飛んでいる。
ツルよりもモッサリした感じなので、
オオハクチョウかユリカモメだろう。それもまた美しい。

どうせ、鳥は囲えないのだ。
囲えないものは美しい。
たとえそれが羨望のすり替えであったとしても。

20030123/000794
『クマートラップ』
 
川湯温泉駅から川湯バスターミナルまで280円。約20分。
連絡は良いが、駅の周りを見る暇は無い。
ぼやぼやしてると次はずぅっと後だ。
クマ像ボーっと見ていて危うかったが、バスに飛び乗る。
いまだ降る粉雪の中、この地にも長い長い道路が続く。

バスターミナルは川湯温泉街の中に在り、周囲は商店街だ。
大鵬の出身地であるそうで、記念館がすぐ側に在る。
日帰り入浴できる施設も幾つかあるようだ。
記念館の裏手には立派な公衆便所が在るのだが、
なんと冬期は
閉鎖されている。
扉の前に雪が積もり積もってしまうからか? 雪国行政か。
 
“温泉”という地名だけに惹かれて来たものの、
先の予定が、実は無し。
楽な観光名所めぐりは歳とってからでも出来るし。
どうせ知らない風景だらけ。何処に行っても面白い。

夕刻まで時間余裕が在るので歩き回りたいところだ。
路線図を見ると阿寒バス大活躍だ。
バスターミナルで周辺地図を確認していると、
職員さんが親切に説明してくださる。
“露天風呂が在って周囲に歩き甲斐のある所”を訪ねると、
「それなら
和琴半島」と即答。

屈斜路湖の南端に突き出した部分だ。
地図上では
ジャガイモのヘタみたいな小ささだが、
湖を見ながら雪道を歩ける地というのは面白そうだ。

川湯バスターミナルから和琴半島は940円。
動き出したバスの外を粉雪が包んでゆく。
  
雪国素人にとっては、楽しくてたまらない。

20030124/000795
『伝説の湖アイス』
水が見えた。
雪で遠近感が
錯綜しているのか、屈斜路湖がに見えたのだ。
白く淡くなった向こう岸は見えない。
 
屈斜路湖は日本最大の
カルデラ湖だそうだ。
今年の旅テーマである
“日本一”がまたひとつ。

周囲57km 面積79.7平方km、最深部117.5m・・・
湖から流れ出る釧路川は釧路湿原を流れてゆく。

屈斜路湖北東の川湯温泉から移動して、東岸に
砂湯温泉へ向かう。
砂湯というバス停に到着。停車時間は30分もあるとの事。
この付近では奈良県の川湯と同様、砂地を掘ると温泉が湧き出てくるそうだ。

土産物売場を兼ねた休息所が在る。
此処の公衆便所はバスターミナルのものと同型だが使用可能。
雪だまりを乗り越えて、頑丈な引き戸を開ける。
こうして雪景色の中に居ると、次第に慣れてはくるものの、
それでも新鮮な発見が寒さよりも前に来る。

休憩所で、此処独自のものらしいピスタチオのソフトクリームを食す。
やはり北海道は氷菓も楽しまねば。350円。
『まりも子ちゃん』グッズも在る。
緑色の毛玉好きな人にはタマラナイ。

暖房の効いた店内から、寒気が渡る湖面を見る。
一瞬一瞬が
“直前まで知らなかった風景”である現実を忘れたくない。
それは実は、日常に於いてもそうなのだが。

20030125/000796
『超竜伝説クッシャロー・ジョウ』
『恐竜・怪鳥の伝説』は1977年の東映映画。
実写版
『ドカベン』の併映として有名なこの映画は、へぼへぼ感も有名。
昼下がりのTV映画枠で見たが、イカス主題歌だけが思い出サ。

屈斜路湖畔の砂湯には、
クッシー像が鎮座。
意外とカワイイ・・・かも知れない。
目撃談のひとつでは、
「オバケのQ太郎みたいな顔だった」と読んだ記憶があるのじゃが。

店内には、話題が出た当時の新聞記事も飾られているが、
今も昔も、写真は単なる波紋だけだ。

信憑性はともかく、
せっかくの観光資源なのだから、もっと展示資料を増やしても良いかと思う。
 
クッシー像は
“お約束”通りにプレシオザウルス風味。
6千5百万年前における
“海の覇者”首長竜プレシオザウルスは、
その形状とネームバリューからしても、
こういうUMA(未確認生物)イメージ化には使い易いのだろうか。

でも、プロントザウルスではデカく作らないと絵になりにくいし。
足の長さが絶妙でないと笑える造形になるし。折れそうだし。

なんにせよ・・・
火山湖である屈斜路湖に、水棲巨大生物が泳いで来るのは
辛かろう
きっと波瀾万丈のあんなことやこんなこと満載の旅路が・・・・・

ま、湖の周辺部は、温泉やキャンプ場や観光ルートが色々あるので、
いつ出現してくださってもオッケーな環境な筈。
“淡い恋”とか“昔の恋人”とか“スーパーカー”とかが、
怪物出現と平行してスパークする
青春讃歌とかが・・・

20030126/000797
『サイエンスバードメンバー』
『パーマン』が劇場版として復活すると聞く。
だが、元来の設定ではパーマンの正体がバレてしまうと・・・
上司であるバードマンによって
“パー”にされてしまう筈。
“動物に変えられてしまう”という新設定は如何なものぞ。

思案と暖房を断ち切り、休憩所から出れば、雪は大粒。
先刻までの粉雪でも、大阪では驚く程の雪だが。 
北海道人といえども、ここまで降ると雪と呼んで良い程の大粒だ。

その雪降る中、私は、謎の料金箱を発見した。
代金は100円。ワンコインを投入すれば
ゲットバック不能
取り戻しの効かない1秒と引き換えに得た物は、
ビニール袋に詰め込まれた
異形
嗚呼、流れてきた人生で、こんな事は今まで無かった。
雪舞う中で立ち尽くす右手の袋には、いっはいの
食パンの耳

来るがいい! 
鳥よ! 白い鳥よ!!

使い魔の如く食パンを投げれば、むらがり集まる
オオハクチョウ
フフフ・・・空舞う時の
優雅に比べ、地を歩く姿の滑稽な事よ!
鳴くでもなし吠えるでもなし、無気味な沈黙の中を徘徊するものどもよ!
うぬらに出来るのは、
ヒト極端には避けぬまま絶妙な距離を保つ
姑息のみか!
地べたに投げ与えられた
エサをついばむだけなのんか!

おらぬか!? 我が指から直接に糧を奪い取る
猛者は居らぬか!?
オマエらに無用なストレスを与えようとは思わない!
その翼を傷つけたり無用に触れようとは思わない!
だがオマエらはそれでええのんか!?
ただ、与えられたエサにばかり
依存するあまり、
それを獲得行為だと曲解して得心する
負け鳥ばかりなのか!

「はふぅ!!」

やりやがった・・・
如何にワイが気配を消して
ボーっとしていたとはいえ、
ワイの手ぇごと噛み付いてパンを掴み取ってゆきよったわい・・・

ふふふ・・・凄ぇ・・・
凄ぇぜぇ、オマエはよぅ・・・

フッ、どうしたってんだ。
オマエは他の誰もが出来なかった事をしたんだ。
もっと誇り高いフェイスをしろよ。
ハトが豆鉄砲くらったような顔しないでサ・・・


20030127/000798
『石花言霊』
バスがそうして終点に着く。和琴半島だ。
人影の無い広場に弧を描くようにバスが回り込むと、雪降るバス停。

多透と入れ替わりにバスに乗る人を、
女子高校生らしき2人が見送っている。

「また遊びに来てね」「またね」

叫ぶわけでも泣くわけでもない、その
あたりまえに在る言葉が、
雪降る静寂の中に大きく
と響いた。

旅先では、
こうしたなにげない言葉に人間の繋がりを感じる一瞬に出会う事が多い。
自分に繋がっていなくても
他の誰か同士が繋がっているのを知るのは嬉しい。

帰りのバス時間を確認し、振り向けば既に誰も見えない。


20030128/000799
『遭遇!ぺんぎん生命体』
舗装路は既に白だけで覆われて、土もアスファルトも見えない。
冬期閉鎖中のキャンプ場を横目に見ながら、とにかく前進。

相変わらず遠く遠くまで真っ直ぐに続く道。
その遠く遠くに
人影を見た気がしたが、定かではない。
雪煙の向こうに見えたその影は
2人ぶんなのだが、
どうにも移動速度が遅く、
まるで巨大ペンギンが不馴れな道を徘徊しているかの様だ。

「もしや・・・
宇宙にん?!」

不安と期待が私の心身に充填されていた。
嗚呼!今の我を取り巻くのは地の果ての静寂。
そして何よりも
としての自己認識。

もしや此の地の此の道の先で
宇宙にんとコンタクトが生じた際、
大阪人として恥ずかしくないボケが今の自分に出来るのだろうか?

未来と呼ばれる時の彼方に繰り広げられる物語で、
ファーストコンタクトする英傑達の心情が今! プチプチと伝わるやうだ。

20030129/000780
『非線形湖面』
「湖がっ!凍っちょる!!」
 
眼前に在るのは、かつて見た事のなかった広大を固め埋める
だった。
波打ち際の1枚を持ち上げてみれば、15mm以上の厚さばかり。

しかもそれが静寂の中に在るのではない。
湖面を渡る風と波の流動が、膨大なる数の氷破片を揺らし、
それらは衝突を絶え間なく繰り返しながら
“音”をたてているのだ。

鳥避けの
鳴子に似ている音。幻想の蟲が鳴いているようでもある。
以前に買って持っている
レインスティックを思い出す。
丸太状の乾燥サボテンに砂を封じ込めて、雨の様な音をたてる素朴な楽器。

風と氷の音が世界を包んでいる。
それは時にとても大きく響いているのだが、決して五月蝿くはない。
ただ、自覚できていない
時間の隙間から染み込んでくるようで、
それにはとても驚いてしまう。

誰も居ない道が在るのならばそれを楽しみたい性癖だが、
この音のせいで更に寂しさなどは
揮発してゆく。
 
世界の
非線形な系が浮き彫りにされているようだ。
こうして初見空間の中でこそ初めて見えてくるの
皮膚感が在る。
カオス理論も、そのひとつだ。

個々要素の時間的変化は
決定論的方程式で表記可能な筈なのに、
あまりにも膨大で
複雑な要素群が絡み合っているが故に、
全体予測が
実際的不可能な領域を周囲の全てに知覚する。
 
そんなものは、日常にこそ多々在るというのに。
旅先でこそ面白さを増してゆくのは何故なのだろう。

20030130/000781
『うろぼろすジンジャー』
湖畔の長い雪道を歩いていると、神社が左頭上に見える。
周辺地図に在った屈斜路神社か。

そこまでの狭間には、雪に埋もれた葉の無い林。
すぐ近くに迂回できる
迂路(うろ)も無し。登りを強行。

下草が厚くなっていそうな所は雪ごと体重で沈み込むので、
なんとか回避したりしようとしたり木に掴まって捕まって進む。

雨露(うろ)ではなく、パウダースノー。ひと足ごとに舞う。

忍者伝説では、
片足が沈む前に反対側の足を出して沈む前に次の足。
雪の上では、下草が我が体重に耐えきれず沈む前に次の支点へ。

どうせ人生タイトロープ。
まわり道した方が安全迅速だったかも知れないが。
「面白い方へ面白い方へ進みなさい進みなさい」と、
知らない女神の
ういすぱー
 
倒木に雪が降り積もる。
白の鮮烈に引かれて木々の茶は黒に近付くモノクロームの印象。
囲碁の別称で
烏鷺(うろ)というのが在るそうな。
カラスの黒とサギの白を碁石に見立てたのだろう。

その烏鷺の如き色彩の中、
雪から突き出る下草が世界に緑を主張する。
 
視線を泳がせると、古風な
木製の鳥居
こじんまりとした社ではあるが、雪の中でそれはとても風雅だ。
この白の沈黙も、夏の蝉時雨も、誰も居ない静寂も、
すべて浴びながら時を重ねているのだろう。

名前は和琴神社。
ならば屈斜路神社はいずこ? 別名なのか? 別に在るのか?
それとも年ごとに順番改名? あるいは
さまよえる神社なのか?

傍らの木の幹に、大きな
(うろ)を発見。
飛び上がって覗くものの、腐葉土みたいなのしか見えず。
B級モンスター映画では、こんなトコにこそ怪物卵が在って、
“ぺく!”っと噛まれたり乗り移られたりして、
それが平和な温泉街を揺るがすアドベンチュアーのビギニングなのだが。

更に見上げれば、小振りな穴も。
キツツキの生息地だと案内板で読んでいたので、得心する。
木の空洞は“虚”や“空”とも表記する場合が在るという。

見上げれば、曇る白と青空との境界が凄い速さで動いていた。

そういえば仏教用語で
“有漏”(うろ)という言葉が在る。
“漏”とは煩悩の別表記。人は有漏と無漏の間で歩くのか。うろうろと。

深呼吸してウーロン茶を飲んだ。

20030131/000782
『我等路傍の点なりて』
氷がカラコロと鳴る湖畔の道を行く。
和琴半島を
反時計回りに行く。
半島の内部は山になっており、
何処か
知らない海と陸の間を歩いている気分が離別しない。
防寒装備のオカゲで寒さは感じない。
去年の歩行では防寒着の内側に汗を結構かいていたのだが、
この日はかなり歩いているにも関わらず
体温は快適だ。
衣服内気候が安定しているというよりも、外気温のせいだろう。
温度計は零下10度
微風なれど、遮るものの無い湖面から渡り来る風は休まない。
 
そろそろ、在る筈なのだが・・・
“露天風呂”が。

一本道ゆえ間違う事は無いのだが、少々不安になる小心者の身。
白い空の遠くをカラスの黒が
として飛んでゆく。
UFOを見たいという願望が自分に“見せてしまう”のは、
きっとこんな時なのだろう。
 
細い脇道が現れ、ゆるやかにくだってゆくと小屋を発見。
マツ材で作られた小屋。
周囲と溶け合いながらも、何か
唐突な感が在る。
町からさして離れていない所なのに、この地の風景は、
ここまで人工物を異質なものに見せてしまうのか。
だとしたら、この自分自身も
異質物だ。
 
町が管理してくれているらしい。
脱衣場と浴場に別れた内部は、誰も居ないまま静寂の中。
春の緑の中で入るには気持ち良さそうだが、
窓から見える湖面は凍り付いたまま。
湯は特に濁り無く、湯気さえなければ湖水の様な透明度。
入りたくはあったが、まだ半島の散策路を半分も来ていない身。
このまま
此処に引きこもるわけにはいかない。
もうひとつの露天風呂に期待を繋ぎ、外の道へ帰還。

出た途端に、寒風を感じる。

情けないぐらいに、
この身は“快適”に慣れ易いのだと知る。

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