ART FORCE
「ART FORCE 」
1988年5月に登場したS13型、5代目ニッサンシルビアのキャッチコピーである。
その言葉通り、直線基調の3BOXボディはエレガントストリームラインと呼ばれる、流れるような曲線で構成されており見るものを惹きつけた。

このクルマには販売不況に喘ぐ日産から大きな使命が課せられていた。
それは当時、俗にデートカーと呼ばれたスペシャリティクーペ市場を制覇していたホンダプレリュードの独走を止め、首位の座を獲得する事。
「?」と思った方も居るかも知れないが、シルビアはもともとスポーツクーペでは無くファッションクーペである。

初代シルビアは1965年にしばらく後に発表されることになるフェアレディ1600のクーペ版としてデビューした。ダイヤモンドカットをイメージした流麗なボディは職人の手によって叩き上げられており、価格も非常に高価で、トヨタスポーツ800の2倍にあたる120万円であった。
このため、生産数も非常に少なく、3年間で554台であったと言われている。また車名も、フェアレディや他の多くのクルマに付けられた「ダットサン」ではなく、当時は高級車のみに使われた「ニッサン」を名乗っていた。
その後もシルビアはスタイリッシュクーペの路線を歩み歴史を重ねていくが、このジャンルには、大ヒット1車種+その他大勢と言う、いわば1人勝ちの法則が有り、古くは1970年に初代が登場したトヨタ セリカが、1980年代は1982年に2代目となったホンダ プレリュードが主役を務め、なかなか主流になれずにいた・・・。

「時代は、次のクルマを待っていた。」
これはS13シルビアのサブコピーであるが、このモデルでシルビアは宿敵プレリュードを蹴落とし、ついに念願の首位に躍り出る。後の91年のマイナーチェンジでは新設計のSR20DETを搭載し、より走行性能を高めたが、この頃からシルビアは違う意味で注目を浴びる事になる。

「唯一のコンパクトFR」
セリカは1985年にデビューした4代目(ST165)から、プレリュードは1978年登場の初代からFFレイアウトを採用している。これはベースモデルにあたるセダンが居住性の確保、部品点数の削減といった理由で次々とFFへ転身を図った事が原因である。
また、1987年にはAE86の呼び名で今でも名車の誉れ高いE80型レビン・トレノが生産を終了し安価なFRモデルが無くなってしまった。
FF化の波に乗り遅れたのか、それともスポーツ性能を優先させたためなのか。
真因は分からないが結果的にS13は従来モデルを踏襲してFR形式を採用していた。
車両価格が安価、維持費が安い5ナンバーボディ、ハイパワーなターボモデルも有る、そしてカッコイイ。
S13には多くの要素が備わっていた。
スポーツクーペとしても魅力的なシルビアが販売に苦戦するハズが無かったのである。S13は5年半の間に約30万台が販売された。

ところで、一般的に新車の開発には3年から4年掛かると言われており、この4年の間にはいろいろな時代の変化が訪れる。クルマの評価も変われば、景気も変わってしまうのである。
1989年に次期モデル(S14)の開発がスタートしたのだが、開発陣はシルビアのキャラクター作りに大いに悩んだ。本来デザイン優先のクーペであるシルビアに走りを求める声が増えている。ちょうど同時期に起こったバブル経済崩壊の波を受け新車販売は低迷し、特に遊びグルマであるクーペタイプの販売は激減していた。また、この頃から徐々にRVが注目を集め始めていた。そもそも、そういう事情が無くてもヒット作の次は難しい。

1993年に発売されたS14型の開発コンセプトは、
「意のままの楽しい走りとセンスの良さを徹底追求したスタイリッシュスポーツクーペ」
「走りのクーペ」と「デートカー」という2軸の折り合いをどう付けるのか。ニッサンの回答は「両立」であった。スタイルはS13の延長線上にあり、より曲線を強調したものとなり、結果全幅は1700mmを超え3ナンバーになった。走りの性能も強化され、エンジンはパワーアップしているし、S13の弱点であったブレーキも強化しホイールを5穴にした事にも走りを強く意識した結果が表れていた。
しかし「二兎追うものは一兎も得ず」の言葉通り、流行に敏感な層は走り屋イメージの付いたシルビアから離れ、また走りを求める層からはスタイル優先の結果による3ナンバー化からくる重量の増加がもたらす動力性能の低下に不満が集中した。
マイナーチェンジでは顔の形を変え、GT-R譲りの3連メーターを装備するなどして販売はやや良化したものの絶賛されるまでには至らなかった。
続くS15は、S14での失敗を反省してボディも5ナンバーに戻されたが、この間に急速に市民権を得たスポーツワゴン&ミニバンにシルビアの客層は大きく傾き、また、S13・S14の中古車が安価に出回りだした事もあり販売面では苦戦を強いられた。

その後、販売不振や、より強化された排ガス規制や安全規制に対応できなかった事を理由に2002年8月に生産・販売を終了した。良きライバルであったプレリュードも販売不振を理由に2000年8月に生産を終了している。一時代を築いたこのジャンルも、人気はミニバンなどの実用的なRVに流れ、継承車はセリカのみとなってしまった。

やはり、時代は次のクルマを待っていたのである。


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