【墓碑銘】 ユウニ 夏の日差しが大地を焼き付ける。セミのミンミンと鳴く声が響く木々に囲まれ た墓地のはずれ。異国の服の上に薄く着物を羽織った青年、三紗都はその奥の更 に小さく囲まれた場所にある墓の前でしゃがむ。 「こんにちは、なずな。桜の時期になってきましたよ。一度、あなたとゆっくり 花見をしたかったですね」 三沙都は、花を添え墓の主へと語りかける。決して豪華な墓ではない。むしろ、 隣に並んでいる物と比べると見劣りする事もあるだろう。けれども、繰り返し 繰り返し手入れされた跡がある。その墓には『双津なずな』と刻まれている。 「どうやら、退屈はしていなかったみたいですね。いつまでたっても、あなたは 慕われている…あなたの、愛が本物だった証ですね」 この墓に眠る女性、なずなは捨て子で、姓などは無かった。双津というのは彼 女の暮らし生きてきた長屋の名前。そして、彼女にとってはその全てが家族だっ たからこそ、時に自らそう名乗っていた。だからこそ、刻まれた姓。 「なずな…」 三紗都はその名を繰り返し呟く。今も訪れる人の絶える事のない墓。その名は、 多くにとってとても深い意味を持つもの。 昔も今も、そしてこの先も。 セミの鳴き声が、陽射しに負けまいとするかのように大きくなっていった。
夢現より三沙都。